Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate

Aozora Bunko

と、ぼくの顔とクサヤの数を見くらべた。途中でこぼしたか、犬にでも咥えて逃げられたのか、何故かその干魚の数が足りなかった。「しようがない小僧サンだね、お使い一つろくに出来やしない」と、おかみさんは台所から茶の間へ引っ込むまで後ろ姿でぽんぽん云った。

こう書いてくると、いやな記憶ばかりを持ち、やたらにセンチな少年だったようでもあるが、厭な事だけが朝夕だったわけでもない。何といっても、親の膝を離れた当座は、寝床へ這入ってから独りベソを掻きつつ泣き入りする夜も何度かあったが、しかし根本はやはり子供で、至極単純だったのである。ちょっと気が反れるとすぐ親恋しさなどは忘れていた。そして、おやつ時に茶の間へ呼ばれて、倉どんの分と自分の分との今川焼や塩せんべいなどを、おかみさんからうやうやしく戴いて退がって来るのも、ちょっとした愉しみだったし、台所でボソボソ食べる箱膳の御飯やおつけも、いつか美味しくなっていた。

また何よりは旦那なる人が、一こう無口でぼくらにも優しい事だった。初めのうちは、「旦那さま」とか「おかみさま」とかいう敬称が口に出ないで困ったが、それも馴れたし、わけてこの男主人の方には、毎朝の二つ枕を片づけるあの折の感情はべつにして、だんだん尊敬に近い気もちが持てるようになっていた。