Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
――そういう馬鹿だといって工員たちは噂が出るとよく笑うのだった。ぼくも子供心に、そういう人なのかと改めて爺さんを見直した。けれど爺さんの小皺にはちっともそんな大損をしたという影もなし、人に愚痴をこぼしたのを聞いたこともない。今以て、ぼくには唯、温かな爺さんとして、そのあばた顔までが、かなり鮮明に眼に残されているのである。それにしても名を忘れたのは申しわけない。南仲舎にはぼくも僅かしかいなかったので、いわば行きずりの人の温かさに過ぎない事ではあったけれど。
日給の支払い日は、月々十四日と晦日の二回であった。一日の欠勤もしないでも、居残り料が加わっても、一日十四銭では貰う袋の中の額は、いと些細なものである。
けれど初めて得た金、自分で働いた金、それを手にしたときは、日頃の何ものもなく快い昂奮だった。以前の川村印章店では、一銭の小費いも、徒弟初期には無い約束だったから、自分で働いて得た金は南仲舎が初めてなのだ。それをポケットにして帰る日の夕方には、やたらに何か買って帰りたかった。弟や妹たちに与えてみたい物が果物屋にも菓子屋にも屋台の焼大福屋にもやたらに目について仕方がなかった。