Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
ぼくの体は人々の手や肩で、ドックの胸突きのような石段を担ぎ上げられているらしい。ふと、その間にわれに返った。そして自分の体を見た。胸も手も、ほとんど全身が血に見えた。
血と感じたとき、ぼくは又、失神状態に落ちてしまった。それきり何も後は知らなかった。後で考えると、血と見たのは、手に持っていたペン缶のレッド・ペンキを満身に浴びていたものだった。ちょうど、夕陽の頃だったから、開いた瞳孔に、その赫光も手伝って、頭からの鮮血と思われたものにちがいない。
また、過失の理由も、後で聞くと、こうであった。寒いので、平井老人は、手袋をしていた。船具部の仲間なら、そんな事はないが、係りは倉庫番であったし、年も老っているので、足場綱が、杭の肌に火の匂いを出しつつ、キ、キ、キと軋み出すと、もう食い止める力もなく、思わず手を放してしまったらしい。――尤も、そう成ってから、なお踏ン張ろうとすれば、足場の下降する勢いで、逆に自分の体が、ドックの巨口へ引き込まれてしまうかも知れないから、しまったと思っても、ロップを放さざるを得なかったわけである。
ぼくの奇禍が、この人の過失と聞かされて、後では妙な気がした事だった。