Classici giapponesi con furigana
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あやしきたびそう
怪しき旅僧
田中 貢太郎
Leggi 怪しき旅僧 (あやしきたびそう) di 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 2374 caratteri · 5 schermate
飯がなくなると、旅僧は手桶の杓をとって一口水を飲んだが、咽喉へ入れたあまりを地炉の火の上へ吐きだした。すると地炉は泥池になって水が溢れるようになるとともに、ふいふいと蓮の葉が浮きだして白と紅の蓮の花が一時にぱっと咲き、数多の蛙が集まって来て声をそろえて喧しく鳴きだした。
恐れて死んだ人のようになって此の容を見ていた主翁は、此の時やっと気が注いたのでそっと裏口から這い出て往って隣家の者に話した。隣家の者は、「それこそ妖怪だ、逃がすな」と云って、各自に棒や鍬を持って主翁に跟いて来た。
そして、裏口からそっと入ってみると、室は元の室になって、旅僧は地炉の傍に仰向けになってぐうぐうと鼾をかいて睡っていた。
「睡っている、睡っている」と、手引して来た主翁が小声で囁いた。
「じゃ、そっと往って捕まえろ」と、云って十五六人の男はそろそろと入って往き、不意に飛びかかって旅僧の手足を捕えた。そのうちに一人は其の頭をしかと掴んだ。
と、旅僧は眼を覚して皆の顔を一わたり見渡した。かと思うと、押えつけた人びとの手の下からふっと抜けた。
「それ逃げたぞ」
「叩き殺せ」
皆の者は用意して来た棒や鍬を持って叩き伏せようとしたが、旅僧の姿はひらひらと室の其処此処に閃くばかりでどうすることもできなかった。