Classici giapponesi con furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Leggi 新書太閤記 (しんしょたいこうき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 197.228 caratteri · 394 schermate
……まだいるか。まだ出かけないか」
彼の大任を案じて、他人事ならず、心配してくれているらしい。しかし、強右衛門は、縫針を運びながら、振向きもせず、
「む、むう、まだだ。……まだ夜半だろう。行くときには声をかけるから、あっちに行っててくれ。部署についていてくれい」
と、膠もなかった。
三、四人の朋友は、そう聞くと、そっと跫音をしのばせて帰ってゆく。――強右衛門は、襟を縫い終ったらしく、糸を噛んだ。
針をもつと病妻のことが、眼のまえにうかんでくる。
病妻を思うとき、子の声が耳に聞えてくる。
さすがに、ぽろりと、つい涙をこぼした。
あわてて涙を拭いて、たれか人が見ていなかったかと、不覚を叱りながら、厚い板の扉を振向いた。
その下に、古脚絆、布わらじ、一本の刀、火打石、狼烟筒などが、一まとめに揃えてある。
「ええ、いけねえ」
何か、頭から振り払うように、頭を振って、一つ二つ、拳でたたいた。
そしてにわかに、身支度へとりかかった。甲州の坑掘り人夫に扮装して、いく度か、自分の衣髪に苦慮を払った。
「……よし」
ひとり呟いて、坐り直した。そして短檠の灯をふき消すと、四角な狭間から蒼い月の光が映して彼の膝近くまでとどいた。