Classici giapponesi con furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Leggi 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 178.609 caratteri · 362 schermate
「オッ、寒いっ」
と、思わず、くさめを一つして、小袖で口を抑えた。
「風邪をひくぞよ、一角」
「えッ?」
男は、そう言った兵部の声を、疑うように、
「俺を、一角と知っているおめえは?」
「うとい奴じゃの。たとえ、わずかな間でも、禄を食んだ旧主の声を、忘れる奴があろうか」
舷に、身を這わせて、小障子の隙間から、中を覗いていた一角は、途端に、
「あっ、しまったッ」
弾かれたように、突っ立った。そして、河へ飛び込もうとするのを、兵部の手が、鐺を掴んで、
「何で逃げる。――たとえ路傍の人間であろうと、危急を救われた礼も述べずに、姿を消すが、作法か、武士か」
「――面目次第もございませぬ」
屈み込んで、がばと、顔を伏せた。その手を、兵部は、すくい取って、ずるずると中へ、
「清水一角と申したの」
「はっ、御、御意にござります」
「たしか、村上寛之助の推挙で、上杉藩の剣道方に、一年か、二年……。あれは、何日頃であったかの」
「もはや、四、五年前、流浪中の事にござります」
「只今も、流浪中ではないのか」
「はっ」
一角は、穴でもあったらはいりたかった。なぜこの人に救われたかを後悔するのだった。