Classici giapponesi con furigana
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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
Leggi 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 68.023 caratteri · 133 schermate
母となってどこか鋭さが円められた信子は、祖母の名の房の字を貰って、正房と名づけられた幼児と、いたるところに麗しい母子の肖像を描いて正隆を包んだのである。
九
信子夫人の美と、一種の威厳ともいうべきものは、結婚後、単にあてどがないということが原因だった正隆の自堕落を矯制していた。それのみならず、父親となって、純白無二な生命をいたわりながら抱き擁(かか)えて見ると、決して悪というべき何物をも持たない正隆の心は、ほんとによくなった。このよさは、時によると彼の弱々しい微笑の間に、大望(アンビション)さえも忘れさせかねないものである。また、時によると、得体の知れない悲しさにさえ沈ませるようなものでもある。
妻と子と、家と。
正隆は、生活の快い、日向(ひなた)を感ぜずにはいられなかった。有難い日向である。平和な日向である。そして事のない、日向である。
もう少しで、そのほかほかと陽炎(かげろう)の立つような生活の安穏に居眠ろうとした正隆は、正房が二歳になった時、思い掛けぬ刺戟を与えられた。
それはほかでもない、当時、青年という青年の血を湧き立てずには置かなかった、海外留学、それも、農商務省からの留学生として、海外派遣を命ぜられるかも知れないという福音なのである。