Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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むげつものがたり

無月物語

久生 十蘭

Leggi 無月物語 (むげつものがたり) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 18.485 caratteri · 36 schermate

Aozora Bunko

犬養ノ善世は狩衣すがたで車のわきにつき、ときどき汗を拭きながらむっつりと歩いているのが、窓格子の隙間から見えた。

八坂の第に着くと、泰文は谷と谷との間に架けた長い橋廊をわたって細殿に行き、はるか下の墓を見おろしながら酒盛をはじめた。いいぐあいに酔いが発しないらしく、折敷の下物を手づかみで食い、夜の更けるまで調子をはずした妙な飲みかたをしていたが、夜半近く、杯を投げだすと、そこへ酔い倒れてすさまじい鼾をかきだした。

公子と花世は蒼くなって眼を見あわせ、今こそと、たがいの思いを通じあった。いずれこういう折があるものと期待していたが、それにしてもあまりに早すぎた。着いたばかりでは、善世も手が出まい。どうしたらよかろうという苛立ちと当惑の色が、たがいの眼差のなかにあった。公子が心をきめかねているうちに、花世はつと立って細殿から出て行ったが、間もなく戻ってきて、橋廊のきわから公子を手招きした。公子が足音を忍ばせながら花世のそばに行くと、花世は公子の耳に口をあてて、

「だいじょうぶ。いま善世が来ます」とささやいた。

しばらくすると、善世が夏草をかきわけながら谷のなぞえを這いあがってきた。