Classici giapponesi con furigana
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ちちのかたみ
父の形見
豊島 与志雄
Leggi 父の形見 (ちちのかたみ) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6879 caratteri · 14 schermate
父はその庭石を据えなおし、椿の枝を鋏み、木斛の虫をとり、楓の枯葉をはらい、草花に肥料をやった。縁側に腰掛けて煙草を吸いながら、首を傾げてじっとうち眺め、また立っていっては働いた。それは実に丹念な庭師だった。
借家の狭い庭の、草や木や石だ。自殺しようという者にとって、そんなものが何になるのか。然しながら、たとえ死にはしなかったとは云え、自殺まぎわに父がそれらのものに関心を持ってたことこそ、君が記憶していなければならないことだ。庭をうち眺め、君の方をふり向いて、木の葉や草の芽を視線で君に指し示した父の顔付を、君は覚えているだろう。それとも、黙りこくってる陰鬱な顔しか君の頭には残っていないかしら。
正夫よ、君の父は、君の母の死後、随分放蕩をしたようだが、そのうちに、ほんとうに女と愛し合ったことがある。而も、随分せっぱつまった愛情で愛し合ったらしい。そうして或る晩、とても朗らかな笑いをした。
雨にでもなりそうな静かな晩だった。父は前日からその女と逢っていて、まだ互に別れかねていた。愛する者同士の間では、時間が実に早く過ぎ去るし、為すことも話すことも、とりとめないつまらない事柄ばかりだし、だから、いつまでたっても、もうそれでよいという別れの時間が来ない。