Classici giapponesi con furigana
ja-reading.com
Leggi i classici giapponesi online con furigana. Filtra per livello JLPT, tocca una parola per il significato e traduci una frase.
くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
Leggi 痀女抄録 (くじょしょうろく) di 矢田 津世子 (やだつせこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 32.578 caratteri · 65 schermate
此処の家も、尾久の家も、ところを明かさずじまいだったらしいが。……そうそう、あの爺さんね、なんでも元いた家の隣りの……」
「ああ、加福さんでしょう。有名な刺繍屋さんよ」
「ああ、あの人が、ねえ」
中尾は、感動をもって、寸時、黙した。
加福の師匠は、この日の午過ぎ、奥住の家に立寄ったのであった。悔みをのべて後、師匠はこう言った。
「寿女さんの刺繍されたもので、何か遺っているものでもありましたら、ぜひにも拝見させて頂きたいと思って参上しましたが」
「なんですか、鷲だか鷹だかの刺繍にかかっていたようでしたが、あれは……」
「あれは遺言で、わたくしが頂戴しました」
と、師匠はしずかに言った。「何か、他に遺っているものでもありましたらと思って……」
「ほかにと仰言いましても、別に……ああ、そう、このスリッパ、お寿女さんが刺繍してくれましたんですけれど」
龍子は、爪さきかけたままのスリッパを、ちょっと、もちあげてみせた。
「あっ!」というような小さな声が、師匠の口を洩れた。
それは、緑色の綸子の地に、白ひといろの蘭花を繍したものであった。
師匠は眼を凝らして眺めた。龍子が脱いだスリッパを膝にとって視入った。