Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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つぶてしんじゅう

礫心中

野村 胡堂

Leggi 礫心中 (つぶてしんじゅう) di 野村 胡堂 (のむらこどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 14.190 caratteri · 28 schermate

Aozora Bunko

越前守は支那出来の陶榻に腰をおろして、心長閑に四方を見廻しました。中年者の分別を何処か置き忘れたような、上品な邪念の無い顔を見ると、これが老中筆頭の利け者で、日本国中を顧上らせた、天保改革の主とはどうしても思えません。

「御前様」

豊は恐る恐る声をかけました。

「何んじゃ、誰も此処には居らぬ、遠慮なく申して見い」

「空は美しく晴れ渡り、小鳥は楽しげに囀ずって居りますが、人は――」

お豊はゴクリと固唾を呑みました。

「…………」

それを聴くともなき、水野越前の茫洋たる顔には、木の間を漏れて赤々と陽が射します。

「八百八町の男女、――日本国中の人々は、一昨年以来、空の晴れも知らず、小鳥の声も聴かず、明日の日が何うなるかとそればかりを恐れて居ります」

「…………」

「贅沢禁制は結構でも、心持が沈んで、笑いも喜びも無くなっては、誰が生業を励むものでございましょう。――このように悲しい世の中には、一体誰がしたのでござりましょう」

越前守の後ろに廻ったお豊は、その太刀の柄に手を掛けて、もう鯉口を切って居たのです。

丁度其時、越前守の真上の樹の枝には、一羽の巨大な怪鳥――いや、怪鳥とも見える一人の庭師、息を殺して下を窺って居りました。