Classici giapponesi con furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Leggi 私本太平記 (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 126.598 caratteri · 254 schermate
「なにしろ、家内の母乳が出ませんので、乳児には、葛、米の粉などを湯掻いては、飲ませておりますが、今夕、この辺りの散所街は、どこもかしこも、えらい騒ぎでございましてな」
「ほ。……そんな騒ぎがあったのかね」
菊王は、とぼけて。
「――それで、用達しも出来ずにいたわけなんだね」
「諸所に火の手は見えますし、六波羅衆が入って、合戦になったとか、いや捕物だとか、この辺の散所衆まで、棒キレなど持ってみな出てゆく様子。とても買物などには上がれません。……で、街の空のみ眺めていましたが、赤子は飢もじゅうなり出して、ヒイヒイ泣くし、あいにく家内の容体も、こよいは常より病状が悪いので、途方にくれていたところでございまする」
「じゃあ、舟にはほかに、誰もいないのかい」
「生れてまのない赤子と、家内が寝ているだけなのでございます。それの葛粉やら薬などを、街で買求めて来たいので……いまも、家内の枕もとへも、わけを話してやりましたら、安心して、頷いておりました。すみませんが、一ト走り行ってまいりますから、ご迷惑でも、その間だけ、どうかここをお願いいたします」
男は、あとを頼むと、心も空のように、岸へ上がって、どこへともなく駈けて行った。