Classici giapponesi con furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Leggi 私本太平記 (しほんたいへいき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 126.598 caratteri · 254 schermate
菊王は見送ってから、
「いじらしいなあ」
そしてまた、独り呟いた。
「しがない舟芸人とはいうものの、女房思いな、やさしげな男だ。散所者は荒っぽいというが、こんな夫婦もあるのを見れば、そうでもないのか」
すると、苫の下で、
「菊王」
俊基がまた呼んでいた。彼も、家に残してある妻の小右京を思い出したことでもあろうか。
「ちょっと、隣の舟を覗いてみぬか。急に赤子も泣きやみ、苫のうち、妙に何の気ぶりもせぬが」
「なるほど、そう仰っしゃれば?」
菊王も気になっていたらしい。そっと、隣の舟へ這い渡って行った。
暗い苫のおくには、ぷんと病臭のようなものが籠っていた。小さい灯皿が横木に架かっている。むしろの上に、雑巾のような薄べったい夜具が敷いてあった。……菊王の重みで、少し傾いた舟の揺れを、病人はすぐ体で知って、木枕の上の顔を、ふと、もたげかけた。
半ば、黒髪にかくされて、女の顔は、見られようもなかったが、その白さは、柳の糸に架かった月ともいえようか。それに物怯えでもしたらしい眸が、はっと、菊王をして、見ては悪いものを見たような罪の意識を抱かせたほどだった。
「…………」