Classici giapponesi con furigana
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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Leggi 花と龍 (はなとりゅう) di 火野 葦平 (ひのあしへい) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 410.131 caratteri · 824 schermate
「ただ今」
玄関の閾をまたぎながら、そういったらしいのだが、誰の耳にも聞きとれなかった。
「お父さん、どうしたの?」
マンのその言葉が聞えたのか、聞えなかったのか、うつろな眼で、ジロリと見て、
「ウンコじゃ」
くぐもった声でいって、ゆらゆらと、便所の方に行った。廊下の欄干を伝いながら、大便所の戸を開けて入った。
「変じゃなあ」
ババンも、不審そうな顔をしている。
かすかな風が庭の立木を鳴らし、池でしきりに鯉か鮒かのはねている音がする。その音が静かな夜の空気を破っているばかり、便所の方は森閑としていて、コトッという音もしない。おどけ好きの金五郎は、大便所から、わざと、家中にひびくような巨大な放屁をして見せることがあるのだが、小さなその音もしなかった。
マンは胸騒ぎがして来た。
「秀子、ちょっと行ってごらん」
秀子は、立って行った。まもなく、便所の方から、けたたましい声が起った。
「お母さん、早よ来てえ。お父さんが、死んどるう、……」
マンは、弾丸のように、飛んで行った。ババンがその後から続いた。便所の前で、秀子が、おんおん泣いている。開かれた戸の中に、金五郎が、提灯をたたんだようにくず折れているのが見えた。