Classici giapponesi con furigana
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しょっかくのせかい
触覚の世界
高村 光太郎
Leggi 触覚の世界 (しょっかくのせかい) di 高村 光太郎 (たかむらこうたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 4161 caratteri · 9 schermate
私は彫刻家である。
多分そのせいであろうが、私にとって此世界は触覚である。触覚はいちばん幼稚な感覚だと言われているが、しかも其れだからいちばん根源的なものであると言える。彫刻はいちばん根源的な芸術である。
私の薬指の腹は、磨いた鏡面の凹凸を触知する。此は此頃偶然に気のついたことであるが、ガラスにも横縦がある。眼をつぶって普通の玻璃面を撫でてみると、それは丁度木目の通った桐のサツマ下駄のようなものである。磨いた鏡面はさすがにサツマ下駄でもないが、わずか五寸に足りない長さの間にも二つ程の波がある事を指の腹は知るのである。傾斜の感覚を薬指は持っているのであろう。鏡面の波動を感ずる味わいは、丁度船のおだやかなピッチングのようである。少し快よい眩暈を感じさせる程度である。
人は五官というが、私には五官の境界がはっきりしない。空は碧いという。けれども私はいう事が出来る。空はキメが細かいと。秋の雲は白いという。白いには違いないが、同時に、其は公孫樹の木材を斜に削った光沢があり、春の綿雲の、木曾の檜の板目とはまるで違う。考えてみると、色彩が触覚なのは当りまえである。