Classici giapponesi con furigana
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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
Leggi 過渡人 (かとにん) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 20.206 caratteri · 41 schermate
二
俺は急いで家の方へ帰って行かなければならなかった。――何かが俺を待ってるかも知れない、何か新らしい意外のことが。然し或はまた……。
二
「おい手紙が来てはいないか。」
矢島さんは会社から帰って来ると何時もよくこう尋ねた――
矢島さんは家の門を入ると屹度、一度郵便箱を覗いた。それから妻の常子と女中とに迎えられて奥に通ると、そのまま一度は茶の間に坐るのが常であった。そして常子に「郵便は来ていないか。」と聞いた。何か書状が来ている時はすぐにそれを読み下して、大抵は煩いと云ったように首を振った。また「いいえ参って居りません。」という答えを得た時は、彼は右手で一寸髭を撚った。矢島さんは立派な鼻髭を持っていた。
或る時常子は気転をきかせるつもりで、夫が火鉢の所に坐るとすぐこう云った。
「お手紙も別に参って居りません。」
矢島さんはじっと妻の顔を見つめてそして怒鳴った。
「手紙がどうしたと云うんだ、馬鹿!」
その時矢島さんの顔には、一種の恐ろしい緊張があったので、常子もそれに答弁しないで黙ってしまった。矢島さんはそれから暫く口を利かなかった。
然しそれもやがて忘れられてしまった。