Classici giapponesi con furigana
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のわき
野分
Leggi 野分 (のわき) di Natsume Sōseki (夏目 漱石) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 93.508 caratteri · 189 schermate
痰を吐くたびに眼を皿のようにして眺める。赤いものの見えないのが、せめてもの慰安である。
痰に血の交らぬのを慰安とするものは、血の交る時にはただ生きているのを慰安とせねばならぬ。生きているだけを慰安とする運命に近づくかも知れぬ高柳君は、生きているだけを厭う人である。人は多くの場合においてこの矛盾を冒す。彼らは幸福に生きるのを目的とする。幸福に生きんがためには、幸福を享受すべき生そのものの必要を認めぬ訳には行かぬ。単なる生命は彼らの目的にあらずとするも、幸福を享け得る必須条件として、あらゆる苦痛のもとに維持せねばならぬ。彼らがこの矛盾を冒して塵界に流転するとき死なんとして死ぬ能わず、しかも日ごとに死に引き入れらるる事を自覚する。負債を償うの目的をもって月々に負債を新たにしつつあると変りはない。これを悲酸なる煩悶と云う。
高柳君は床のなかから這い出した。瓦斯糸の蚊絣の綿入の上から黒木綿の羽織を着る。机に向う。やっぱり翻訳をする了簡である。四五日そのままにして置いた机の上には、障子の破れから吹き込んだ砂が一面に軽くたまっている。硯のなかは白く見える。高柳君は面倒だと見えて、塵も吹かずに、上から水をさした。