Classici giapponesi con furigana
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しょくよく
食慾
豊島 与志雄
Leggi 食慾 (しょくよく) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 9672 caratteri · 20 schermate
気がついてみると、木村さんも私の側に佇んでいました。そして二人で、無言のうちに、私の家の方へ歩き出しました。すぐ近くですが、真暗な木立の中の坂道です。木村さんは私を送ってきてくれるのだ、そして木村さんの旅館の戸は夜通し開いてる、そんなことが分っていました。木村さんの片手の懐中電燈の光が、ちらちらと足もとだけをてらします……。
十二時頃は、山の中では、もう真夜中です。生きてるものの気配もなく、しいんと静まり返っています。木村さんは首垂れて、妙にしょんぼりとした姿で、力のない歩み方でした。ふと何か……気になって、私は立止って、木村さんの顔を見ました。暗くて何にも分らず、声だけが聞えました。「どうしたのか、私は……あの、噴火口で死ぬ人たちのことを、考えていたものですから……。」私はぞっとしました。「私も……。」と云いかけて、そして何に堪えられなかったのか、よろけるようになって、あの人の肩にすがりつきました。近々と、薄い闇を通して、あの人の、美しい澄みきった眼が見えました。その時、ふいに、懐中電燈の光が消えて、あとに残ったのは、三十男の独身者の、でも少しも男臭くない、かすかな香水の匂いでした。