Classici giapponesi con furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Leggi 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 261.216 caratteri · 521 schermate
そして、一顧するとそのまま黙々と麓へ去った……あとは、有明けを啼く虫の声がひとしきり。
……ふと。
お綱は舌に苦い味を知った。
冷やかな朝の冷気が、薄荷草を噛むように口へ流れこんできた。
「お……」と意識づいて、身を起こした時に、一粒の気つけ薬が喉を通ったことを自身も知らない。
かの女は、手にふれた新藤五を拾いとって、仆れている弦之丞のそばへ、いざり寄った。暁の空の下に見た恋人の鮮麗な血は、お綱に美しい誘惑であった。
嘆きとか、悲しみとかいうような、ふだんの感傷は起こらなかった。むしろ微笑したいくらいな不思議な心の淵に立っていた。
かの女は、今はじめて許されたように、男の顔へ頬ずりした。頬と頬を重ねたまま、流るる涙を拭かなかった。飽かずに恋人を抱きしめた。
そして、自分の乳房を男の胸で圧されながら、袖にくるんだ新藤五の冷やかな切ッ尖に見とれた。
白い襟くびを仰向かせる……。
喉へ!
突こうとすると――手が利かない。いつか弦之丞の手が下から自分の腕くびを握っている? ……。
お綱はそれを錯覚ではないかとあやしんだ。
けれど、弦之丞の手は、しかと自分の腕くびをつかんで離さない。