Classici giapponesi con furigana
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くろねこ
黒猫
島木 健作
Leggi 黒猫 (くろねこ) di 島木 健作 (しまきけんさく) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6717 caratteri · 14 schermate
彼は決して人間を恐れることをしなかった。人間と真正面に視線が逢っても逃げなかった。家のなかに這入って来はしなかったが、たとえば二階の窓近く椅子を寄せて寝ている私のすぐ頭の屋根の上に来て、私の顔をじろりと見てから、自分もそこの日向にゆったりと長まったりする。私の気持をのみこんでしまっているのでもあるらしい。いつでも重々しくゆっくりと歩く。どこで食っているのか、餓えているにちがいなかろうが、がつがつしている風も見えない。台所のものなども狙わぬらしい。
「いやに堂々とした奴だなあ。」と私は感心した。「何も取られたことはないかい?」
「いいえ、まだ何も。」と家のものは答えた。
「たまには何か食わせてやれよ。」と私は言った。世が世なら、飼ってやってもいいとさえ思った。
郷里の町の人が上京のついでに塩鮭を持って来てくれた日の夜であった。久しぶりに塩引を焼くにおいが台所にこもった。真夜中に私は下の騒々しい物音に眼をさました。母も妻も起きて台所にいる声がする。間もなく妻が上って来た。
「何だ?」
「猫なんです。台所に押し込んで……」
「だって戸締りはしっかりしてあるんだろう?」