Classici giapponesi con furigana
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くろゆり
黒百合
泉 鏡花
Leggi 黒百合 (くろゆり) di 泉 鏡花 (いずみきょうか) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 78.148 caratteri · 154 schermate
湯の谷の屋根に処々立てた高張の明が射して、眼のあたりは赤く、四方へ黒い布を引いて漲る水は、随処、亀甲形に畝り畝り波を立てて、ざぶりざぶりと山の裾へ打当てる音がした。拓を背にし、お雪を頸に縋らせて、滝太郎は面も触らず件の洞穴を差して渡ったが、縁を下りる時、破屋は左右に傾いた。行くことわずかにして、水は既に肩を浸した。手を放すなといって滝太郎が水を含んで吐いた時、お雪は洪水の上に乗上って、乗着いて、滝太郎に頬摺したが、
「拓さん堪忍して。」
声を残して、魚の跳るがごとく、身を飜して水に沈んだ。遥かにその姿の浮いた折から、荒物屋の媼なんど、五七人乗った小舟を漕寄せたが、流れて来る材木がくるりと廻って舷を突いたので、船は波に乗って颯と退いた。同時に滝太郎の姿も水に沈んだが、たちまち水烟を立てて抜手を切ったのである。拓とともに助かったのは言うまでもない。
その夜湯の谷で溺れたのが十七人、……お雪はその中の一人であった。
水は一晩で大方退いて、翌日は天日快晴。四十物町はちょろちょろ流れで、兵粮を積んだ船が往来する。勇美子は裾を引上げて濁水に脛を浸しながら、物珍らしげに門の前を歩いていた。