Classici giapponesi con furigana
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きのうときょう
きのうときょう
宮本 百合子
Leggi きのうときょう di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 2319 caratteri · 5 schermate
柿の白い花が雨の中に浮いていたことを覚えているから、多分その翌年の初夏ごろのことであったろう。父は裏庭に向った下見窓の板じきのところに蓄音器をおいて、よくひとりでそれをかけては聴いていた。そういうとき、何故か母はその傍にいず、凝っと音楽をきいている父の後姿には、小さい娘の心を誘ってそーっとその側へ座らせるものをもっていた。四十を出たばかりであった父は、黙って娘の手をとって自分の手のなかへ握り、そのまま膝において猶暫く聴いていて、レコードをとりかえたりするとき「どうだい、面白いかい?」ときいたりするのであった。
やがて、レコードのレッテルの色で、メルバの独唱だのアンビル・コーラスだのいろいろ見分けがつくようになり、しまいには夕飯のあとでなど「百合ちゃん、チクオンキやる」と立って変な鼻声で、しかも実に調子をそっくり「マイマイユーメ、テンヒンホー」などと真似した。母は苦笑いした。今思えば、その声も歌詞もキャバレーで唄われたようなものであったろう。更に思えば、当時父の持って来たレコードもどちらかと云えばごく通俗のものであったと考えられる。オペラのものやシムフォニーのまとまったものはなかったように思われる。