Classici giapponesi con furigana
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きつねつき
ちくま日本文学012 中島敦
Leggi ちくま日本文学012 中島敦 (きつねつき) di Nakajima Atsushi (中島 敦) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 9136 caratteri · 19 schermate
彼は、またほとんど何の考えもなしにその木乃伊を抱起して、神像の台に立掛けた。数日来見飽きるほど見て来た平凡な木乃伊である。彼は、そのまま、行過ぎようとして、ふとその木乃伊の顔を見た。途端に、冷熱いずれともつかぬものが、彼の脊筋を走った。木乃伊の顔に注いだ視線を、もはや外らすことが出来なくなった。彼は、磁石に吸寄せられたように、凝乎と身動きもせず、その顔に見入った。
どれほどの長い間、彼はそこに、そうしていたろう。
その間に、彼の中に非常な変化が起ったような気がした。彼の身体を作上げている、あらゆる元素どもが、彼の皮膚の下で、物凄く(ちょうど、後世の化学者が、試験管の中で試みる実験のように)泡立ち、煮えかえり、その沸騰がしばらくして静まった後は、すっかり以前の性質と変ってしまったように思われた。
彼は大変やすらかな気持になった。気がつくと、埃及入国以来、気になって仕方のなかったこと――朝になって思出そうとする昨夜の夢のように、解りそうでいて、どうしても思出せなかったことが、今は実に、はっきり判るのである。なんだ。こんな事だったのか。彼は思わず声に出して言った。