Classici giapponesi con furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Leggi つゆのあとさき di 永井 荷風 (ながいかふう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.725 caratteri · 148 schermate
しかし東京はさすがに広いもので、半年近くも稼ぎ廻っていたにもかかわらず、銀座のカッフェーへ出てから今日まで一人もその時分のお客には出逢わなかったので、月日と共に一時の用心もおのずから忽せになった時、今夜突然、自分の乗っている車の運転手から呼び掛けられ、君江はさすがにびっくりはしたものの、知らぬ顔で押通すに若くはないと思定め、
「人ちがいでしょう。知らないわ。わたし。」
「君子さんの方じゃ、お忘れになるのも無理はありませんよ。円タクの運転手にまでなり下ってる始末だから。しかし君子さん女給になったからって、何もそうお高くとまるには及ばないでしょう。女給も高等も内実においては変りはないんでしょう。」
「下してよ。ここでいいから。」
「雨が降っています。お宅まで是非送らせて下さいな。」
「いいのよ。迷惑よ。」
「君子さん。あの時分は十円だったね。」
「下せっていうのに、何故下さないんだよ。男が怖くって夜道が歩けるかい。馬鹿ッ。」
君江の威勢に運転手は暴力を出しても駄目だと思ったのか、そのままおとなしく車を駐めると、折からざっと吹ッ掛けて来た驟雨に傘の用意のないのを、さも好い気味だといわぬばかり。