Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ひととき

ひととき

宮本 百合子

Leggi ひととき di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 3370 caratteri · 7 schermate

Aozora Bunko

その時、私の樫の木の歌の中に「空にひ入る」と云う言葉があったのを、

「私にはあんまり強すぎる言葉なんです。

どんなにつとめても、斯う云うのは私に出来ません。

ほんとうに弱いんですよねえ、体も心も。

と云って、自分が沼津に居た時の歌だと云って、熱にうかされる様になって昼間火鉢によりかかって目をつぶるといつでも好きな夢を見られる嬉しさをうたった歌を誦して聞かせた。

細い細いこの上ない感傷的な調子で、体をゆーらり、ゆーらりと、前後にゆすって歌う安永さんの様子は皆の心を物柔かな悲しさに導いて行った。

私の左向うに座して、私の詠草を見たまま身動きもしずに下を見つめて居たあの人の様がその時どんなに淋しそうに見えたろう。

考えて見れば、自分と同じ病の人の歌の気持は、私共に想像出来ないほど他の人の心を打ったに違いない。その様子が、どうしても追う事の出来ない様に私の目先にチラツいた。

そして、私は、涙をためながらあの人にたよりを書いたのであった。

奇麗な白い紙に、細い平仮名ばかりのやさしい「ふみ」であった。

何としても、あの人の病を私が明かに知って居る様な事を云えなかったので只心に浮ぶままを書きつらねて行った。