Classici giapponesi con furigana
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ドナウげんりゅうこう
ドナウ源流行
斎藤 茂吉
Leggi ドナウ源流行 (ドナウげんりゅうこう) di 斎藤 茂吉 (さいとうもきち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 21.565 caratteri · 44 schermate
僕は麺麭を食うことをやめて暫く応対していた。
話はありふれた会話に過ぎなかった。また僕には込入ったことは旨く言えなかった。そのうち若者はこんなことを話した。若者は民顕の生れだが、フランクフルトに住んで、今年そこの大学を卒業したのである。これから三つばかり駅を行くと、そこの山上に孤児院がある。若者の姉はそこの褓母になっている。今夜はその姉を訪ねるところであると、こういうのであった。僕はこの話を聞いて心が動いた。汽車は以上のように山峡を走っている。月光は流れるように谷間を照らしている。汽車が駅に著くと、若者は山上を指して呉れた。そして慇懃に会釈し、僕の手を強く握って降りて行った。そこから僕ひとりになった。そしてしばらく窓をあけて月の光を見た。
僕は山上の孤児院のことを思い、そこに勤めている若い女のことを思った。遙々と留学して来て以来、月光のこのように身に沁みたことは、今までになかった。業房に閉じ籠もって根をつめて居たせいもあろうが、月光を顧みたことなどはついぞなかった。然るに今夜は不思議にも、生れ故郷の月を見るような気がしてならない。この月に照らされているドナウがうねりながら遙か向うに見えなくなるのをみていると、目に涙のにじんで来るような気がした。