Classici giapponesi con furigana
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ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語
岡本 かの子
Leggi ドーヴィル物語 (ドーヴィルものがたり) di 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 21.723 caratteri · 44 schermate
女はまたかと思ってはっとした。が、或いは偶然でもあるかと思い返した。季節の燃えるようなこの花をホテルの部屋係が使うのは当然でもある。女は成可くそうだと思い度いので持って来たボーイに追求もしなかった。だがいまの小田島の態度が、これが偶然のゼラニュウムの花で無く、イベットがこの部屋へボーイに持たしてよこしたものであることを証明した。あたしは出て行く。でもこれきりであたしはイベットから引込みは仕無い。あたしは死ぬまであいつに張り合う――女の声は低いが喚いたり愚痴に落ちたり止め度も無い。
小田島は耳ではかなり沁々女の言葉を聞き乍ら眼の前に燃えるゼラニュウムの花に今さら胸深く羞恥の情を掻き立てられ、それにイベットとの別離の悲しみも心に強く交り合った。
時計が十時を打った。すると女は突然あらあらしく扉口の方へ出て行った。小田島は少し狼狽えて不用意に云って仕舞った。
――イベットは今夜ここを発ってスペインへ帰るのだよ。もう永久にフランスへ帰って来ないんだよ。
振り返った女は顎を突き出し、当の相手が小田島ででもあるかのように云う。
――じゃ、あたしもスペインへ行く。