Classici giapponesi con furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Leggi ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) di 梅崎 春生 (うめざきはるお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.411 caratteri · 263 schermate
(このような実質のある重い言葉を、どんなに長い間おれは聞かなかっただろう?)
彼は意識をそこに置かずに、反射的に札を出したりめくったりしていた。白木は時々瞼をあげて、ちらりと彼をうかがいながら、札を出し入れした。彼はとつぜんM脳病院のつめたい廊下や、皮膚がひりひりするような手術道具などと一緒に、構内のひろい直線道路ですれちがった痩せた背の高い男の姿を思い出した。すれちがうとき男がつぶやいている言葉を、彼はあの時聞いた。意味は判らなかったけれども、それはたしかに独逸語であった。男の細い上体は、黒いズボン吊りにしめつけられ、あえいでいるように見えた。
(あいつはたすかったんだな、あいつは)
それは麻痺性痴呆の病名をもって、A級戦犯の法廷から除外された男であった。この男がM病院に収容されていることは知っていたし、直線道路の彼方にその姿を見たとき、彼はすぐその男であることを直覚した。長身のその姿は、つめたい風のようなものをただよわせながら、近づいてきた。すれちがうまで彼等三人は、しんと口をつぐんで歩いていた。
(どうしてあの時おれたちはしんとしてしまったのだろうな)