Classici giapponesi con furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Leggi 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) di 国枝 史郎 (くにえだしろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 160.664 caratteri · 323 schermate
すぐに誰かがこう答えた。
で、ちょっとの間しずかであった。
微風が木立を辷って行った。
赤児のむずかる声がした。と、子守唄が聞こえて来た。その子の母が唄うのであろう。美しい細々とした声であった。
虫が草叢で鳴いていた。
微風がまたも辷って行った。
「ああいいな。どんなにいいか知れねえ。……土の匂いがにおって来る。……枯草の蒸れるような匂いもする」
老人の声がこう云った。
「八ヶ嶽! 八ヶ嶽! おお懐しい八ヶ嶽! 八ヶ嶽を思い出す」
一人の声がそれに応じた。やはり老人の声であったが。
「見捨ててから久しくなる。そろそろ八ヶ嶽を忘れそうだ」
「俺は夢にさえ思い出す」以前の老人が云いつづけた。「笹の平! 宗介神社! 天狗の岩! 岩屋の住居! 秋になると木の実が熟し、冬になると猪が捕れた。そうして春になると山桜が咲き、夏になると労働した。……平和と自由だったあの時代! 俺は夢にさえ思い出す」
「漂泊の旅の二十年! 早く故郷へ帰りたいものだ」
「星が飛んだ!」
とまた誰かが云った。
虫の声が鳴きつづけた。
夜烏がひとしきり梢で騒いだ。おおかた夢でも見たのだろう。
窩人達は眠ろうとした。