Classici giapponesi con furigana
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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Leggi 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) di 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 81.668 caratteri · 164 schermate
鳥の声一つ聞えなかった。
そのうちに、一つの松林を通越して、また他の松林の中へ入った。その時は、西の空は全く暗かった。月の光はこんもりとした木立の間から射し入って、林に満ちた夕靄は煙るようであった。細長い幹と幹との並び立つさまは、この夕靄の灰色な中にも見えた。遠い方は暗く、木立も黒く、何となく深く静かに物寂しい。
宵の月は半輪で、冴えてはいたが、光は薄かった。私達が辿って行く道は松かげに成って暗かった。けれども一筋黒く眼にあって、松葉の散り敷いたところは殊に区別することが出来た。そこまで行くと、最早人里は遠く、小諸の方は隠れて見えなかった。時々私達は林の中にたたずんで、何の物音とも知れない極く幽かな響に耳を立てたり、暗い奥の方を窺うようにして眺め入ったりした。先に進んで行くW君の姿も薄暗く此方を向いてもよく顔が分らない程の光を辿って、猶奥深く進んだ。すべての物は暗い夜の色に包まれた。それが靄の中に沈み入って、力のない月の光に、朦朧と影のように見えた。ある時は、芝の上に腰掛けて、肩に掛けた物を卸し、足を投出して、しばらく休んで行った。私は既に非常な疲労を覚えた。