Classici giapponesi con furigana
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なつとおきやま
夏遠き山
宮本 百合子
Leggi 夏遠き山 (なつとおきやま) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 3736 caratteri · 8 schermate
何の花だろう。朝起きるとその木を見る。女中に訊いても樹の名を知らぬ(大体、田舎でも樹木の名など知らない人が多いのは意外だ。却って田舎の人が自然と絶縁して暮している)或る朝、ところが、一番日当りよい下枝の蕾が開いた。その清らかに爽やかな初夏の贈物に向って心が傾きかかった。日ごとに白い花の数は増して、やがて恰好よい樹がすっかり白い単弁の花と覗き出した柔い若葉でつつまれた。幾日かかかって花は満開になったのだ。その満開のまま今度は更に幾日も幾日もある。那須山麓のことだから、その間一日おきに雨が降る。細かい雨、横なぐりなザンザ雨、または霧、この間は家根をも剥しそうな大風が吹いた。硝子が鳴り、破れそうで眠れない程であった。起きて廊下から瞰下すと、その大風に吹き掃かれる深夜の空には月が皎々と照り、星が燦めいている。丁度、月の光りに浸された原野の真上のところに、二流れ黒雲があった。細く長く、相対して二頭の龍が横わっている通りだ。左手の黒龍の腹の下に一点曇りなき月が浮かんでいる。やや小ぶりな右手の龍が、顎をひらき、その月を欲して咬み合う勢を示した。左手の龍は憤り、ドーッ・ドーッ風の吹く毎に体を太く太く膨らかして来る。