Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

Leggi 季節のない街 (きせつのないまち) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 201.379 caratteri · 394 schermate

Aozora Bunko

それは時間にして十秒くらいのものだったであろう。松井くんが突飛な話題をひねりだすまえに、表のたてつけの悪い格子があいて閉り、障子をあけて閉めて、島さんの妻がはいって来た。片手に湯道具を抱え、片手に濡れ手拭をぶらさげていた。

三人の客はさっと左右に眼をはしらせた。動物園で「ライオンが檻から逃げた」と聞いたときの観客の表情は、そんなふうではないかと思われるような表情であった。

「失礼しよう」と野本くんが云った、「――どうも御馳走さま」

それを聞いてから、奥さんは勝手へいった。

「まあきみ、野本くん」と島さんは片手をあげた、「まだ酒が一本あるんだ、湯豆腐も残ってるし、ようやく始めたばかりじゃないか」

だが松井くんも井河くんも、浮き腰になって馳走の礼を述べ、帰り支度をした。たしかに三人とも島さんには友情を感じているけれども、友情ですら引止めることのできないほどの強力なものが、かれらを追いたてるようであった。

島さんが三人を送りだして、ちゃぶ台の前へ戻ると、勝手から奥さんがあらわれた。彼女の顔は磨きあげた赤銅の洗面器のように、赤くてらてらと光ってい、立ったままで島さんを見おろした。