Classici giapponesi con furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Leggi 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) di 松本 泰 (まつもとたい) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 52.797 caratteri · 107 schermate
旅館から数間先に、小綺麗な酒場がある。彼はその朝軽い食事をしたのみで、午後四時になるまで、水一杯も口に入れなかった事を思出して苦笑した。それでも別に食慾はなかったが、かなり疲労れて頻りに咽喉の乾きを覚えていた。
彼は酒場へ入って店台の前の丸椅子に腰をかけながら、炭酸水を交ぜたウイスキーをチビチビと飲んでいた。
すると、羽目板を隔てた隣りの婦人室から、大声を上げて喋っている女の声が聞えて来た。何をいっているのか、坂口にはよく聴取れないが、明瞭した愛蘭訛で、折々口ぎたない言葉を吐いていた。その度に二三の女達がドッと笑い崩れている。
坂口は余り賑やかなので、何気なく店台の上から首を延して覗くと、それは慥かに火曜日の晩、コックス家の前に酔倒れていた婦人であった。
彼女は余程酔っているらしく、片手に泡の立った黒ビールの杯を持って、フラフラと室の中を歩廻っていた。坂口は苦々しげにその様子を眺めているうちに、フト忘れていた黒い陰影が脳裡に拡がってきた。
前夜ハムステッドの池の縁で、道路を横切っていった婦人の後姿が、ありありと目の前に浮んで来た。縁の広い帽子といい、背恰好といい、どうしてもその婦人に違いない。