Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate

Aozora Bunko

やがて出て来ると、家じゅうの眼をみはらすような濃い化粧を見せ、着物も毎朝違ったのに着更えていた。

朝といえば、ぼくらの家でも、店を開けるやら父の出勤支度やら、ぼくら大勢のチビが一人一人学校へ出てゆくやらで、母も女中も一頻りは、てんてこ舞いをやっている。だが、嫂は幾月たっても、花嫁として来た翌日のようだった。髪の毛一すじも気にしながら、この大家内の中では身の置き場がないような姿をしていた。義兄のそばでお給仕したり、やがて、銀行へ出勤する義兄を送るぐらいが、せいぜいの新妻ぶりであった。

もっとも、ぼくらと一つに暮し初めてから幾月もたたないうちに、嫂のお腹は目だって大きくなっていた。彼女にすれば、初めての経験だし、起ち居も苦しいのであったろう。母は、ぼくの義兄とは、文字どおり義理の仲なので、なおさら気をつかっていたに違いなく、始終、嫁を宥り庇う容子がぼくらにさえ分った。

また、気むずかしいはずである父の方も、元々、結婚前の妊娠を認めて家庭に入れた事であるから、それについては勿論、ほかの点でも一切、緘黙を守っている風だった。といって、気に入っていなかったのはいうまでもない。