Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
ぼくの行商箱を拡げるには、そこは余りに似つかわしくない豪壮な玄関だった。初め女中らしい人が、怪訝な顔をして奥へひっこんで行ったが、やがて古川氏の奥さんが出て来て「あら、まあ、吉川さんの息子さんなの……」と、びっくりしたように、頭からぼくを眺めた。ぼくはどう云ったろうか、どうせ満足な口はきけなかったにちがいない。見ず知らずの家で冷やかされるのとまた違って、耳が鳴り、口が渇き、この間の辛抱は何ともいえない。
体のずんぐり短い奥さんは、黙って奥へ行ってしまった。どうするのか、ぼくにも分らず、むなしい、貧しい商品箱を並べた儘で、ぽかんといつまでも立っていた。
すると今度は、奥さんだけでなく、当の古川氏が、丹前の上に縮緬の兵児帯をだらりと締めて、ふところ手で一しょに出て来た。お嬢さんたちだろうか、ぼくと同年齢ぐらいな振袖の女の子と、もっと年配できれいな人も、ぞろぞろ来て、「どこの子?」と囁いたり「まあ、ずいぶんいろんな物があるわね」と、商品の箱を覗いて、何かクスクス笑いあった。
古川氏は、足もとの商品などは見てもくれず「いつから初めたのかね」と、ぼくの姿ばかり見ていた。