Classici giapponesi con furigana
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おんじん
恩人
豊島 与志雄
Leggi 恩人 (おんじん) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 13.268 caratteri · 27 schermate
それで縁側を歩き廻って、自分にも分らない妙に興奮した考えを振り落そうとするように肩を引きしめてみたりした。丁度柱時計が十時を打って、その空粗な響きが室の中に鳴り渡った。それを静寂な夜が四方から押えつけている。彼は廃墟の跡を訪うような気分に包まれて、今一度遠い昔の世をふり返ってみるような心地で、我知らず長い間立ち尽していた。
その時廊下の向うに足音がした。たえ子であった。彼女は薄明るみの中をすかし見て、夫の姿を認むるや否や殆んど駈けるようにして彼の許に身を寄せた。
彼女の眼が光っていた。彼は薄明りにその意味をよむことが出来なかった。それでそっと妻の肩に手を置いて、こう云った。
「叔父さんは?」
「おやすみなすったでしょう。」
肩に置いた手にその低い声が震えるように感ぜられた。彼は今一度妻の顔を凝視した。
「叔父さんは何とも仰言らなかったのかい。」
「いいえ。」そして彼女は一寸息を休めた。「ただ、すっかり以前と様子が変ったねってそう仰言って、私の顔をじいっと見つめていらしったの。私はそれから何か仰言るのかと思って黙っていましたら、何時までたっても何とも仰言らないのですもの。