Classici giapponesi con furigana
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あいのごとく
愛のごとく
山川 方夫
Leggi 愛のごとく (あいのごとく) di 山川 方夫 (やまかわまさお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 103.908 caratteri · 210 schermate
ただ一つの例外は、便所のすぐ左側の部屋にいた共稼ぎの夫婦だろう。アメリカン・インディアンのようないかつい赫ら顔の、背の低いどっしりとした二十五、六の細君と、いかにも明朗・円満な、抜け目なさそうな色白の証券会社員の夫。ある夜、私は見るともなく二人の行為を鍵穴から覗いてしまったのだ。
まだ通いはじめて間もない深夜だった。土曜日だったと思う。私は遅く帰ってきて、仕事にかかる前の一つのだんどりをつける気持で便所に行き、こころよく爆弾を投下していたのだ。そのとき、押しころしたような女の悲鳴と、はげしく畳を蹴る物音が断続した。
私だって、女の快楽の呻きが、苦痛や苦悶のそれに似ているのを知らなかったのではない。が、そのときの叫びは、もっと切迫した、あきらかな恐怖の悲鳴だと思えた。それが二、三度くりかえされ、苦悶の短い尾を引いてぽっつりと切れると、なにかを畳に倒す鈍重な音がひびき、重いものを引きずるような音がつづいた。――もう、人間の声はなかった。
私は好奇心で尻の寒さを忘れた。いささか無責任だが、私はたったいま便所の隣の部屋で殺人が行われたのを想像して、胸がわくわくしてきたのだ。