Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

Leggi 我に叛く (われにそむく) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 29.414 caratteri · 59 schermate

Aozora Bunko

どの位、時間が過ぎたろう……。

不意に、背後で襖の開く音がした。ゆき子は、思わずはっとして我に還り、いそいで顔を振向けた。

彼女は、こんな気分の時、誰の声も聞きたくなかった。若し、妹か女中だったら、何より「後にして頂戴」と云おうとしたのであった。が、短い視線に写ったのは、その中の誰でもなかった。母が、結いたての束髪の頭を下げて、ゆっくりと低い鴨居を潜(くぐ)って来る。――ゆき子は、云い表せない困惑と圧迫とを感じた。彼女は、母が自分の気分に対してどんなに敏感であるかを知り抜いていた。「これほどの陰鬱は到底隠せない。一目で見てとっておしまいなさるだろう」そして。――ゆき子は、振向けたままの顔に、強いて和らぎを添えながら、

「なんなの?」

と云った。

「別になんでもないんだけれどね」寿賀子は、女らしい黒い瞳を動かしてあちこちと部屋の様子を見廻した。

「どう?」

勿論仕事はどうかと云うのである。ゆき子は、覚えず、声が窒(つま)るような心持がした。

「さあ……」

彼女は、座布団の上で一廻りし、机に背を向けて母と向い合った。

「お坐りにならない?」

「ああ」

問をかけて置きながら、寿賀子は、格別確かな返答を求めるらしくもなく、庭を眺めた。