Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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あるさっかのやくび

或る作家の厄日

豊島 与志雄

Leggi 或る作家の厄日 (あるさっかのやくび) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 10.284 caratteri · 21 schermate

Aozora Bunko

彼奴と決闘してやろう。元将校だって何だって、たかの知れた野郎だ。用捨なく殺してやるまでだ。きっと殺してみせる。

決闘の場面が、ちらちらと回転する。急いではいけない。ゆっくりと味ってやれ。おれは起き上って、ジンのグラスを取りあげた。

あたりはしんしんと静まり返っている。深い水底のけはいだ。虫の声もせず、ことりとの物音もなく、大気は淀んでいる。

煙のようなものが、どこかに渦巻き渦巻き拡がってゆく。

「中根圭次郎。」

おれの名を呼んだ。誰だ。

見まわしたが、書棚の硝子戸がぼーっと白んでるだけで、異状はない。違う棚の隅にある二尺ほどの仏像が、にこにこしてるようだ。おれは頬笑ましくなった。

「汝の享楽の……。」

ちょっと声を途絶える。

「なんぞ卑賤なる。」

聞き覚えのある文句だ。

「なんぞ卑俗なる。」

言い直したな。

「なんぞ下劣なる。」

また言い直したな。

それきり声は沈黙した。おれはジンのグラスを取り上げた。頭が少しふらつくようだ。やはり日本酒の方がいい。電熱器にスイッチを入れると、ぢぢぢぢと音がする。

「災厄は一日にして成らず。」

声に答えて、おれは大声で言い直してやった。