Classici giapponesi con furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Leggi 旅愁 (りょしゅう) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 576.941 caratteri · 1138 schermate
」
久慈は矢代の云うことなど聞いていなかった。彼は明日ロンドンから来る千鶴子の処置について考えているのである。二人は橋の上まで来るとどちらからともなくまた立ち停った。
眼も痛くなる夕日を照り返した水面には船のような家が鎖で繋がれたまま浮いている。錆びた鉄材の積み上っている河岸は大博覧会の準備工事のために掘り返されているが、どことなく働く人も悠長で、休んでばかりいるようなのどかな風情が一層春のおもかげを漂わせていた。
エッフェル塔の裾が裳のように拡がり張っている下まで来ると、対岸のトロカデロの公園内に打ち込む鉄筋の音が、間延びのした調子を伝えて来る。渦を巻かした水が、橋の足に彫刻された今にも脱け落ちそうな裸女の美しい腰の下を流れて行く。
「明日千鶴子さんがロンドンから来るんだよ。君、知ってるのか。」
矢代は久慈にそのように云われると瞬間心に灯の点くのを感じた。
「ふむ、それは知らなかったな。何んで来るんだろ。」
「飛行機だ。来たら宿をどこにしたもんだろう。君に良い考えはないかね。」
「さア。」
こう矢代は云ったものの、しかし、千鶴子がどうして久慈にばかり手紙を寄こしたものか怪しめば怪しまれた。