Classici giapponesi con furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Leggi 旅愁 (りょしゅう) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 576.941 caratteri · 1138 schermate
」
千鶴子も手を入れかけたが、
「あら、ほんと、暖いわ。」と云ってねばねばする手さきを葉で拭いた。一面の蕨の叢の中は互の温度に醗酵してヨード・チンキになっているのだった。矢代はもうくたびれて後へも引き返せないので、人の声のする森の方へ耳を傾けているとどこからかかすかにテニスのボールの音が聞えて来た。
「テニスの音ね。どっちかしら。」
「どっちか分らないな。君、ひとつどっちへ出れば一番近いか一寸見てくれ給え。こうなればもう斥候が要る。」
こう云って矢代は千鶴子の両足をかかえようとすると、千鶴子も気遅れを見せずすぐ矢代の肩に手をかけた。
「よろしいか。そらッ。」
矢代は膝をくの字に曲げた千鶴子を上に高くさし上げて云った。
「重いぞ。」
恐わそうに初めは片手を矢代の後頭に巻きつけていた千鶴子も、ぴんと延び上ると片手を自分の額にあて、面白そうにあたりの蕨の原を見廻した。
「まア、広いこと広いこと。」
「どっちです。」
重さに腕をぶるぶる慄わせて訊く矢代の身体の中で骨が鳴った。
「あちらよ。右へ真直ぐに行けば一番近いわ。おお、いい眺め。」
千鶴子はなお真直ぐに延び上ろうとした拍子に矢代の脇腹へ強く沓が食い込んだ。