Classici giapponesi con furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Leggi 旅愁 (りょしゅう) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 576.941 caratteri · 1138 schermate
「はい。お茶。」
と云って、母が出してくれた二度目の茶の熱さは、初めて体内を洗うように感じられた。彼は外国のことなど、一言も母が訊こうとしないのが気持ち良かった。ただ妹の幸子の病状や、親戚のことの変りなど、矢代に訊かれるまま話すだけだったが、こうして母と話している間だけ、あたりに光りの満ち和ぐ思いのするのが、円光に染って休んでいるようで愉しく、屈託のない暫くだった。彼はいつかは自分もこんなに円く曲って、母の胎内にいたこともあるのだと思った。そのときを彼はこの部屋だと見立て、それから遠く海を渡り、陸を廻って来た自分の変りをまた思ったが、見て来た世界のさまを頭に泛べ、元の古巣に戻っているこの自分の物思いは、もう母に話しても分らぬあれこればかりかと思われた。しかし、それにしても、何にいったい自分は悩み、何を希んでやまんのだろうか。――それにまた、この眼をつむったような寂しさはどうしたというのだろう。それは追えども追えども去らぬ寂しさだった。
「あなたお金足りたの。先日も三千円ばかり送ったんだけど、それは受取ってないようですよ。」
母にそう云われて矢代ははッと我に還った。