Classici giapponesi con furigana
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はる
春
岡本 かの子
Leggi 春 (はる) di 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 23.864 caratteri · 48 schermate
京子もそれが好きだった。今夜はお民が縫い上げたばかりの緑絞りの錦紗の袷を京子に着せた。京子は黙ってそれを着は着たが、今夜は嬉しそうな顔もしない。
――うるさい。早くみんな、あっちへ行って。京子は一旦は眠りについたが、遣り場のない不満な焦慮怨恨の衝撃にせき立てられて直きに眼が醒めた。睡眠中、疲労の恢復につれて再びそれらの雑多な感情が蘇って来た。それらは周囲の静寂につれて京子の脳裡に劇しく擦れ合うのであった。
静かな夜である。近隣の家々は、よどんだ空気の中に靄に包まれてぼやけて居た。二三丁距てた表の電車通りからも些の響も聞えて来なかった。ぼやけて底光りのする月光が地上のものを抑え和めていた。
京子の頭上の電燈は、先刻加奈子が部屋を出る時かぶせて行った暗紫色の覆いを透して、ほの暗い光をにじみ出している。
京子は突然起き上った。蒲団の上に坐ってじっと何かに聴き入った。戸外からか、若しくは自分の内心からか、高くなり低くなる口笛が聞えて来る。一心を口笛の音に集中した京子の外界に向く眼は、空洞のように表庭に面した窓に直面した。するとその眼の底の網膜には、外界との境の壁や窓ガラスを除外して直接表庭の敷石の上に此方を向いて佇立する大学生服の男の姿がはっきり映った。