Classici giapponesi con furigana
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はるのやま
春の山
久生 十蘭
Leggi 春の山 (はるのやま) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 8782 caratteri · 18 schermate
「留守だと思ったら、居たな」
「六さんか、お茶でも飲んで行けよ」
「顔を見たから安心した。また来まさ」
翌日、早がけに由さんがやってきた。
「生きて居たかね。十日も表の通りへ顔を見せねえから、患っているんじゃねえかと思って」
勝手の框に腰をおろすと、煙草に火をつけて長い煙をふきだした。
「なア、困るじゃねえかよ。こんな陽気に、家にばかり籠っていちゃ毒だア。ちっと浜へでも出てみなせえ」
「海なら、毎日見ているよ」
「釣りはどうだ。釣りをするなら舟を出すが」
「舟に弱いから、海釣りはごめんだ」
「今日は彼岸の中日だが、なにか忘れていることがあるんじゃねえのか……五ノ日は地方の休み、十一日は浜方の潮休み……彼岸のお中日は、土地じゃ大切な日になっているんだが」
周平は絵筆を洗いながら相手になっていたが、由さんのいいまわしのなかに、なにか気むずかしい絡むような調子がある。悪意ではない、親切なのだろうが、飲み屋で知らぬ客から盃を強いられ、断るにも断りかねるときのような当惑と忌々しさを感じた。
「お祭りの寄付か。どのくらい出すのかいってくれよ。留守番だから、たいしたことはできないが」