Classici giapponesi con furigana
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こよみ
暦
壺井 栄
Leggi 暦 (こよみ) di 壺井 栄 (つぼいさかえ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 56.332 caratteri · 112 schermate
いねの記憶では十歳の時に妾の家で死んだ父親が、夜半に戸板にのせられて家へ帰ってきた時のほか、自分の家で父親の姿を見たことはなかった。小さい時、いねは寺子屋の帰り途などで、すぐその近くにある妾の家を出入りする父親の姿を見かけた。黒い羽織を着ていた。そのころは普段、羽織を着る者は庄屋の旦那と医者どんくらいであり、娘を寺子屋へ通わせる家も少い時代であった。いねは自分が手習いに行っているということで、父親が何か言葉をでもかけてくれそうな気がして利口ぶった顔をして色の白いその顔を上げたのであったが、父親は赤の他人のように素知らぬ顔で真直ぐに歩いていった。石ころがあるほどの注意さえもしてくれなかった父親、それなのにいねはその父を嫌いではなかった。それどころか、父親が戸板にのって帰ってきても誰も悲しんではいなかったし、かえって安心したような母や兄の顔つきや言葉を、いねは成長するにつれて眉根の寄ってくるような心持で批判するようになった。
「この子はまあ、生れて一ぺんも父親に抱かれたこともないのに、顔つきも根性もお父つぁんによう似とら」
多少とも悪意や反感をこめていう時の母親のそんな言葉に、父親の愛情をてんで知らないいねはよけい反発されて父親に肩を持ちたい気になったりした。