Classici giapponesi con furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Leggi 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 112.073 caratteri · 223 schermate
松原十右衛門が来るとまもなく、化粧を直した律が戻って来、そこへ坐るなり「十右衛門」といって泣きだした。
十右衛門は頭を垂れた。
「泣くなら奥で泣いてくれ」と甲斐が云った。
律は指で眼をぬぐいながら、十右衛門と呼びかけた。
「わたくしは船岡へ帰れなくなりました」
「律、ならんぞ」
「母上さまにも宗誠にも逢えません、こなたたちにももう逢えなくなります」
甲斐が「律」ときびしく云った。
「もうひと言だけ」と律が云った、「十右衛門、船岡へ帰ったら、宗誠に伝えておくれ、母はあなたがすこやかに成人なさるのを祈っています、母がどこかで、いつもあなたのために祈っているということを、忘れないでおくれ」
このとおり伝えてくれと云い、声をあげて泣きながら、律は乱れた足どりで、奥へ去っていった。
甲斐はなにごともなかったような、平静な顔つきで、去ってゆく妻の足音を聞いていた。十右衛門に盃を持たせ、自分も飲みはじめながら、甲斐は律のとりみだしたようすを、船岡の母や宗誠には告げぬようにと十右衛門に云った。十右衛門は「はい」と答えたが、顔をあげなかった。
律はその夜のうちに茂庭家へ去った。