Classici giapponesi con furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Leggi 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 178.609 caratteri · 362 schermate
ひとりは、浪人だ。
侍にしては、なで肩で、気どった男である。そして、お稲はすこし、酔っているらしい。
ザ、ザ、ザッ――と野分のように、男女のうしろで、草が鳴った。
(何か?)
というように、ふり顧った優がたの浪人は、チカッ、と白い、針の飛ぶような光線を、まっすぐに見たと思うと、
「わッ」
と、こめかみへ、両手をかさねて、草むらへうッ伏した――いやそのまま、仆れた。
「あら、どうしたのさ」
と、お稲は、男の顔をのぞいて、
「賛之丞さん、ふざけちゃ嫌だよ」
と、何げなく、手をどけて見た。
耳をはずれて、左のこめかみに、一本の小柄がふかく突き立っていた。べっとりと手へついたものを血と知って、お稲は、ぎょっとしたように、とび退いた。
「阿女ッ」
と、近づいてくる百の影を見て――
「あら、お前さん、いつ江戸から」
「たった今、帰ったばかりだ。さだめし、おれの帰りを待っていたろう」
「七日といったのに、どうしたのだろうと、毎日おっ母さんと、噂ばかりしてね」
「ふん……もうその口にゃのらねえぞ。おれを待っているはずはねえ。待っていたのは金だろう」
「ほんとに、むりな工面をたのんで、わたしゃ後で済まないと思っていたんだよ」