Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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わたらせがわ

渡良瀬川

大鹿 卓

Leggi 渡良瀬川 (わたらせがわ) di 大鹿 卓 (おおしかたく) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 280.528 caratteri · 557 schermate

Aozora Bunko

老人はそういって、片眼の赭ら顔をあげて、ハハハ……と笑った。

やがて日没で、地を這う影もさむざむとしてきた。老人は今夜はぜひ泊ってゆけとすすめた。だが、木下は当主も収監された一人であることを知っていた。すると老人はその躊躇の様子を見て、すこしも遠慮に及ばぬと濶達に言葉を添えた。その夜木下はすぐ隣りの新宅へ風呂に入りにいった。裏口の棚の上に豆ランプの光りが茫とこころもとない輪を描いている。春寒い夜風に罐の火の燃えしぶる音がする。木下は風呂に浸って、きょう一日の印象をさまざまに瞼にうかべていた。暗い土間の方で両家の妻女が、なにごとかボソボソ声で囁き合っていたが、

「このさき、どうなることだろう」

そういって長い溜息をするのが、その溜息の抑揚まで妙にはっきり聴えてきた。この新宅の主人は被告でこそなかったが、この日も差入れの用件で前橋へつめているのであった。

夕食後、広い座敷の真中にむき合うと、老人は鉱毒の浸潤しない以前を語って、さすがに感慨深げの様子であったが、

「私の書いたものがありますが、私が読むから聴いておくんなさい」

老人は罫紙を分厚く綴ったものを取りだしてきて、ランプの下にひろげた。