Classici giapponesi con furigana
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きつね
狐
永井 荷風
Leggi 狐 (きつね) di 永井 荷風 (ながいかふう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 9770 caratteri · 20 schermate
尤も私は、その以前から、台所前の井戸端に、ささやかな養所が出来て毎日学校から帰るとに餌をやる事をば、非常に面白く思って居た処から、其の上にもと、無理な駄々を捏る必要もなかったのである。如何に幸福な平和な冬籠の時節であったろう。気味悪い狐の事は、下女はじめ一家中の空想から消去って、夜晩く行く人の足音に、消魂しく吠え出す飼犬の声もなく、木枯の風が庭の大樹をゆする響に、伝通院の鐘の音はかすれて遠く聞える。しめやかなランプの光の下に、私は母と乳母とを相手に、暖い炬燵にあたりながら絵草紙錦絵を繰りひろげて遊ぶ。父は出入りの下役、淀井の老人を相手に奥の広間、引廻す六枚屏風の陰でパチリパチリ碁を打つ。折々は手を叩いて、銚子のつけようが悪いと怒鳴る。母親は下女まかせには出来ないとて、寒い夜を台所へと立って行かれる。自分は幼心に父の無情を憎く思った。
年の暮が近いて、崖下の貧民窟で、提灯の骨けずりをして居た御維新前のお籠同心が、首をくくった。遠からぬ安藤坂上の質屋へ五人連の強盗が這入って、十六になる娘を殺して行った。伝通院地内の末寺へ盗棒が放火をした。水戸様時分に繁昌した富坂上の何とか云う料理屋が、いよいよ身代限りをした。