Classici giapponesi con furigana
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くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
Leggi 痀女抄録 (くじょしょうろく) di 矢田 津世子 (やだつせこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 32.578 caratteri · 65 schermate
なんだったら、母さんがお願いしてみて……」
「そんなこと、母さん」
出しぬけの大声に、母親はびっくらした。
「それかって、お前……三年もの間かよいつめた甲斐がないじゃないかねえ。それに、加福さんだって、あんなに力を入れて下すったんだし、折角の手なんだからねえ」
「でも、そんなこと……」
寿女は本当に困りきった顔で、寸時母親を見戌っていたが、直ぐまた針にかかって、夢中になって縫い続けた。
仕立物を届けに湯島まで行った間に、母親の容態が急変して、医者が駈けつけた時には、もう、こと切れていた。
前夜、久しぶりで晴ればれした顔で牀の上に起きなおって、
「もう、大ぶんに快いから、きょうは一枚縫い上げるよ」
と、きかぬ気をみせて、絽縮緬の座敷着を手にとっていたが、片袖を縫いかけて、針をおいた。
「どうも、顔が重たくってねえ」
そして、しきりに両手で撫でたりしていたが、
「あとは明日のことにしようかねえ。意気地のないがおったらありゃしない」
と、弱く笑いながら寿女の手をかりて横になった。浮腫んで大きくなった顔のことを、母親は、こんなふうに呼び慣わしては、独りで可笑しがっていた。